婦人科疾患や泌尿器科疾患だけではなく、病気には「性差」があります。
例えば、痛風は圧倒的に男性に多く、うつ病はどの年代でも女性が男性より多いといったように病気の発症頻度には「性差」のあることが知られています。
男性に多い疾患として狭心症、心筋梗塞や脳卒中が知られており、甲状腺の病気は女性に多く、がんでは男女共通のがん(乳がんを除く)の中でも女性が多いのは甲状腺がんのみです。関節リウマチなどの膠原病は女性が多い疾患です。
病気の性差には性ホルモンが大きく関わっています。
閉経前の女性に生活習慣病が少ないのは女性ホルモン(エストロゲン)の様々な働き(血管拡張作用、脂質代謝改善作用、抗酸化作用、血栓形成抑制作用など)に守られていることが大きいようです。エストロゲンが激減する閉経後は、一転して生活習慣病になりやすい状況となってしまいます。リスクの高くなってしまう病気の代表が高コレステロール血症(脂質異常症)です。
脂質代謝には性差があり、女性のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)は40歳代までは男性に比べ低いのですが、50歳代以降は男性より高くなってしまいます。脂質異常症は動脈硬化の危険因子の一つで、閉経前は動脈硬化が少なくても、閉経後は増加してしまいます。動脈硬化は心血管疾患との関連が指摘されていますので注意が必要です。
また、要介護の原因でも男女では異なっているようです。男性は脳血管疾患が原因となることが多いのですが、女性は認知症や骨折・転倒から要介護となってしまうことが多いようです。
股関節の骨折は寝たきりのきっかけとなりやすいものですが、その原因は骨粗しょう症による骨がもろくなることによります。骨粗しょう症は女性に多く、やはりエストロゲンの減少が影響しています。
最近とりわけ関心が高いのは、認知症ではないでしょうか。認知症の原因の一つにアルツハイマー病がありますが、同年代での比較では女性の方が男性より発症頻度が高いようです。60歳代では男女差はあまり認めませんが、70歳代以降は女性が多くなり、年齢が上がるほどその差が広がるようです。海外の報告ではあるが病の進行する速さは、女性が男性の約2倍、脳萎縮も女性の方が速いようです。ただしその理由はまだよく分かっていないようです。
アルツハイマー型認知症の危険因子は、男性では糖尿病、高血圧、肥満、喫煙が、女性では抑うつと身体活動の低下が、挙げられています。
参考文献
秋下雅弘 病気の性差を知る 医歯協MATE No.335